2024年表彰の論文賞受賞決定のお知らせ(2023/09/29)
俵論文賞、澤村論文賞、ギマラエス賞について:
2022年の「鉄と鋼」、「ISIJ International」に掲載された論文を対象に選考し、2024年に表彰する論文賞の受賞者が決定いたしました。
卓越論文賞について:
「鉄と鋼」または「ISIJ International」に掲載された論文のうち、原則として前10±1カ年にわたって学術上、技術上最も有益で影響力のある論文の著者に授与されます。2019年に新設されました。
俵論文賞(4件)
- 二流体フラットスプレー冷却実験における移動高温鋼材の非定常沸騰熱伝達特性
鉄と鋼, Vol.108 (2022), No.1, pp.1-10
仁井谷 洋(佐賀大、日本製鉄)、光武雄一(佐賀大)
https://doi.org/10.2355/tetsutohagane.TETSU-2021-085
鋼の連続鋳造工程ではロール間を通過する鋳片をスプレー冷却するため、鋳片はスプレー冷却と放冷を繰り返し受ける状態となる。そのため、高温鋼材表面の非定常沸騰伝熱と、移動する鋳片の非定常熱伝導現象が同時に起こる極めて非定常性の高い状態となる。沸騰冷却を伴う移動系の鋼材冷却に関しては実機での温度実測が困難であり、現象論的な理解がこれまで不十分であった。
本論文では中空回転試験片を用いた独自の実験手法を構築し、熱物性の変化を考慮した高度な熱伝導逆問題手法を用いて、静止系の実験では不明点が多かった鋳造速度、冷却水温度、水量が冷却特性に及ぼす影響を明らかにした。これらにより、学術的に重要な高温鋼材表面の非定常沸騰伝熱現象と移動鋳片の非定常伝熱を連成させ、実機現象の解明に大きく寄与した。特に急冷開始温度に関する鋳片移動速度の影響に関する知見は、実機設備において鋳片表面品質を制御する上での設備設計および操業設計に対して活用されることが期待される。
以上、本論文で得られた手法および知見は、連続鋳造鋳片を含めた高温鋼材の冷却現象解明に資するものであり、実機設計への活用・応用が大いに期待できる。したがって、学術面、技術面で高く評価できるため、俵論文賞にふさわしいと判断される。
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- サイジングプレス幅圧下後の厚み分布が先尾端部の幅プロフィールに及ぼす影響
鉄と鋼, Vol.108 (2022), No.9, pp.616-630
後藤寛人、木村幸雄、三宅 勝(JFE スチール)
https://doi.org/10.2355/tetsutohagane.TETSU-2022-014
熱間圧延工程では、サイジングプレスとそれに続く水平圧延によりスラブの先尾端部の幅が定常部よりも狭くなる幅落ちが発生する。この幅落ちの原因は幅圧延後の幅方向がスラブの先尾端部で厚くなることに起因していることが知られている。この形状はドッグボーンと呼ばれている。幅落ちは歩留まりのロスの原因となることから様々な対応がとられてはいるものの、これまで幅落ちが発生するメカニズムは明らかにされていなかった。
本論文では鉛スラブを用いてドッグボーン形状を有するスラブの圧延過程における塑性変形挙動を見事にFEMでモデル化した。さらに,FEM解析によりこれまで検討が十分でなかった先尾端部の幅減少の発生メカニズムを明らかにすることに成功した。本論文で得られた成果は実用的な観点からも高い価値があり、また論文の総合的な完成度も高い。
以上、本論文で得られた知見によって明らかにされたドッグボーンにおける幅落ちが発生するメカニズムは鋼材への適用が十分に期待され、製鋼プロセスの高度化にも資すると期待される。よって本論文は俵論文賞にふさわしいと判断される。
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- 低合金TRIP鋼板の変形経路に依存したマルテンサイト変態のモデリング
鉄と鋼, Vol.108 (2022), No.9, pp.666-678
安富 隆、川田裕之、海藤宏志、桜田栄作、米村 繁、樋渡俊二(日本製鉄)、庄司博人、大畑 充(大阪大)
https://doi.org/10.2355/tetsutohagane.TETSU-2022-017
自動車への軽量化と衝突安全性向上のニーズのため、高強度鋼板の車体への適用が進められている。近年は、上記ニーズ対応のため、TRIP鋼の適用が拡大している。複雑形状を有する自動車部品の多くは変形経路の変化を含む多様な変形様式で成形される。そのため、 当該鋼の特性を最大限発揮させるには、有限要素法をはじめとする数値シミュレーションを用いた異なる変形経路下での変態挙動やその機構の解明が求められている。
本論文では、TRIP鋼を対象とした加工誘起変態挙動の変形経路依存性を統一的に予測することを目指し、不均質な組織形態と変形経路を考慮した変態モデルに基づいた数値解析手法を提案した。具体的には、上記材料において、圧縮変形と引張変形で異なる変態挙動の再現を可能とした材料構成式の提案とそれを用いた有限要素解析により、変態に伴う膨張を考慮した不均質な組織形態と上記変形経路における、極めて希少価値の高いTRIP鋼の加工誘起変態挙動を報告している。さらに、この報告は二次変形時への適用も可能であり、提案された数値解析手法の今後の発展も期待できる。
以上のように、本論文で得られた知見は学術的に技術的にも極めて高い価値を有するため、俵論文賞にふさわしいと判断できる。
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- せん断端面の水素脆性に及ぼす残留応力の影響
鉄と鋼, Vol.108 (2022), No.10, pp.784-794
崎山裕嗣、大村朋彦、安富 隆、原野貴幸(日本製鉄)、野網健悟(日鉄テクノロジー)
https://doi.org/10.2355/tetsutohagane.TETSU-2022-033
自動車用鋼板の水素脆化対策の最重要課題の一つとして、切断面(せん断加工によって発生したせん断断面)における高い残留応力を定量化することが挙げられるが、これまでの研究では応力の定量化として板厚方向と垂直方向の2方向の応力成分のみの同定から検討されており、水素脆化のクライテリアを議論するのが不十分であった。
本論文は、焼入れ焼戻しマルテンサイト鋼に、円形打抜きせん断加工を行った試料に対して、X線回折測定を行い、Dölle-Hauk法による3軸応力解析から、応力9成分を定量化し最大主応力を実験的に同定することに成功している。さらに水素チャージした試料を観察することで、水素脆性き裂発生について検討し、3軸応力解析と合わせることで、せん断端面の水素脆性き裂が最大主応力の方向と垂直な方向に生じていることを実験的に明らかにしている。また、平面応力状態を仮定することにより、多少の差分はあるものの簡便に最大主応力を導出できることについても言及している。
このように水素脆化を議論するには最大主応力で評価することの重要性を示した点、さらに解析結果に基づいて簡便な残留応力測定法を提案した点は学術上ならびに技術上の有用性が高い。したがって俵論文賞にふさわしいと判断できる。
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澤村論文賞(6件)
- Formation Mechanism of Pearlite Colony by Multiple Orientation Relationships between Ferrite and Cementite
ISIJ International, Vol.62 (2022), No.2, pp.291-298
遠藤詩織, 宮澤直己, 中田伸生, 尾中晋(東京工業大), 手島俊彦, 小坂 誠(日本製鉄)
https://doi.org/10.2355/isijinternational.ISIJINT-2021-332
パーライト中のラメラセメンタイトは、結晶の対称性が低くかつ微細であるため、これまでその結晶方位を広範囲で解析することは非常に困難とされてきた。本研究では、セメンタイトを意図的に球状・粗大化させることによりこの課題を解決し、走査型電子顕微鏡を用いた電子線後方散乱法(SEM/EBSD)によって高精度かつ広範囲なセメンタイトの結晶方位解析を行う手法を確立した。その結果、単一試料で形成するパーライトにおいて、少なくとも独立した3つの結晶方位関係が共存すること、更に、ラメラセメンタイトの成長方向が変化するコロニー境界において、結晶方位関係の不連続な遷移が生じる傾向にあることを実験的に明らかにした。また、この実験事実をもとに、フェライト/セメンタイト間の面平行関係が異なる複数の結晶方位関係を活用することにより、ラメラ配向に高い自由度がもたらされる結果、パーライトの等軸成長が可能になることを証明した。
以上の通り、本論文は、鉄鋼の基本的な相変態であるパーライト変態における多様性を結晶学的な見地から明らかにするとともに、高強度鋼製造の基本技術となる相界面析出現象の理解を深める貴重な研究であり、学術面、技術面の双方において非常に高く評価できることから、澤村論文賞にふさわしいと判断できる。
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- Interaction Coefficients of Mo, B, Ni, Ti and Nb with Sn in Molten Fe-18mass%Cr Alloy
ISIJ International, Vol.62 (2022), No.3, pp.405-412
堀 功雅(富山大)、加藤謙吾(大阪大)、小野英樹(富山大)
https://doi.org/10.2355/isijinternational.ISIJINT-2021-395
鉄スクラップの有効利用がますます重要になるなか、トランプエレメントであるSnの制御は重要な課題の一つである。本論文では、ステンレス溶鋼中のSnの制御に着目して、Fe-Cr 合金中における Mo, B, Ni, Ti および Nb の Sn との相互作用係数を、非常に丁寧な実験によって測定した。実験は、Fe-Cr合金と二液相分離するAgを用いた平衡実験によるものであり、二相間の各成分の活量が等しい関係を巧みに利用している。得られた実験結果は正則溶液モデルによる推定値と比較された。精緻かつ貴重な熱力学データが地道に測定されている点は、非常に高く評価できる。溶鉄にCrが添加された影響を詳細に調査しており、脱炭素化・省エネルギーを進める上での、ステンレス鋼リサイクル・循環に大きく寄与する結果を報告している。以上の通り、学術的・工業的な価値が高く、今後の更なる発展が期待されることから、本論文は澤村論文賞にふさわしいと判断できる。
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- Effects of Particle Size Distribution of MgO and Carbon on MgO–C Reaction Behaviour
ISIJ Int., 62 (2022), No.9, pp.1836-1844
日野雄太、 髙橋克則(JFEスチール)
https://doi.org/10.2355/isijinternational.ISIJINT-2022-072
MgO-Cれんがは転炉や取鍋スラグライン部の内張り耐火物など主要な製鋼用設備に利用される重要な耐火物である。その構成材料であるMgOとgraphiteは高温条件下で不可避的に反応し、耐火物組織の劣化と寿命低下を引き起こす。そのため、耐火物の耐用性の低下を抑制するためには、この反応を定量的に評価する必要があった。
しかし、耐火物中には様々な粒径のMgO粒子が存在しており、この反応をモデル化することが困難であった。その結果、この反応は定性的に解釈されるにとどまっており、定量的な評価が可能な反応モデルの提案が期待されてきた。
本論文では、MgO粒径分布を統計分布関数で表現し、shrinkage core modelと組み合わせることで新規な数理モデルを構築することに成功した。さらに、粒径分布の異なるれんがを用いた実験の結果を本モデルで解析することにより、微粒子の比率が高い場合に反応が促進されることを理論的に明らかにした。これは、耐火物研究におけるブレークスルーにつながる基本的な知見であり、工業的な展開が大きく期待されるものである。
以上のように、本論文で得られた知見は学術的にも技術的にも価値が高いため、澤村論文賞にふさわしいと判断できる。
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- Hierarchical Deformation Heterogeneity during Lüders Band Propagation in an Fe-5Mn-0.1C Medium Mn Steel Clarified through in situ Scanning Electron Microscopy
ISIJ International, Vol.62 (2022), No.10, pp.2043-2053
小山元道(東北大、京都大)、 山下享介(大阪大)、 諸岡 聡(原子力研究開発機構)、 楊 志鵬、ラマスリニヴァス バラナシ、北條智彦(東北大)、 川崎卓郎、ステファヌス ハルヨ(原子力研究開発機構)
https://doi.org/10.2355/isijinternational.ISIJINT-2022-098
中Mn鋼のリューダース帯の伝播中には、ひずみ分配, オーステナイトの加工誘起マルテンサイト変態、変形帯やリューダースフロント形成などの階層的な不均一変形が存在するが、これらが伝播に及ぼす影響は明らかとなっておらず、そのためには、マクロからミクロスケールでの特性評価が必要である。
本論文では、冷間圧延後に二相域焼鈍を施したFe-5Mn-0.1C合金のリューダース変形挙動をマクロとミクロのマルチスケールから調査している。マクロスケールでは画像相関法を用いて、リューダース帯の幅や進展速度を把握し、その特徴領域であるリューダースフロントのその場SEM観察(ミクロレベル)を実施している。応力-ひずみ線図とミクロレベルでの観察の関係から以下の新知見を得ている。弾塑性界面近傍の弾性領域は、不均一変形により巨視的な上降伏点よりも大きな局所応力を持ち、その結果、マクロ的な弾性域において変形帯が発生する。マクロ的な降伏後の成長は、変形帯の分岐、厚さ変化、合体のプロセスを経て進行することを明らかにし、その発展機構をモデル化している。
本論文は、次世代のハイテンとして注目されている中Mn鋼のリューダース変形挙動をマルチスケールその場観察により明らかにし,学術的、工学的にも価値の高いものであり、澤村論文賞にふさわしいものであると判断できる。
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- Origin of Serrated Markings on the Hydrogen Related Quasi-cleavage Fracture in Low-carbon Steel with Ferrite Microstructure
ISIJ International, Vol.62 (2022), No.10, pp.2081-2088
岡田和歩、柴田曉伸(物質・材料研究機構、京都大)、 松宮 久、辻 伸泰(京都大)
https://doi.org/10.2355/isijinternational.ISIJINT-2022-212
鉄鋼材料の水素脆化における破壊形態として、粒界破壊と粒内破壊である擬へき開破壊が重要である。粒界破壊に及ぼす水素の影響については種々明らかになっているものの、擬へき開破壊については、破面の結晶学的特徴やその原因については必ずしも明確ではなかった。
本論文では、フェライト組織の鋼について、水素脆化において擬へき開破面上に現れる特徴的な筋状模様の3次元構造と結晶学的特徴を調査した。その結果、塑性変形が密接に関連する擬へき開破壊では、法線方向の分解応力が最大となる{011}面が破面として選択されること、さらに筋状模様の長手方向は、<110>あるいは<112>方向とほぼ平行になることを明らかにした。また、らせん転位のジョグ引きずり運動により生成する空孔列の方向と破面の筋状模様の長手方向との関連を示唆する結果も得られており、すべり変形だけでなく、変形により導入される空孔について考慮することが、水素脆化を理解する上で重要であることを示した。
以上、本論文は、鉄鋼材料の水素脆化のうち、擬へき開破壊機構を議論する上で、破面法線方向に作用する引張応力成分が極めて重要であることなどを示した点において、学術的・工学的に価値の高いものであり、澤村論文賞にふさわしい論文と判断できる。
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- Development of Low Carbon Blast Furnace Operation Technology by using Experimental Blast Furnace
ISIJ International, Vol.62 (2022), No.12, pp.2424-2432
中野 薫、酒井 博、宇治澤 優(日本製鉄)、柿内一元(日鉄エンジニアリング)、西岡浩樹、砂原公平、松倉良徳、横山浩一(日本製鉄)
https://doi.org/10.2355/isijinternational.ISIJINT-2022-117
現在、全世界の鉄鋼業で2050年のカーボンニュートラル実現に向けた新たな取り組み(水素製鉄、溶融酸化鉄電解、バイオマス製鉄など)がなされている。このような状況の中、本論文はNEDOのCOURSE50事業において、将来のカーボンニュートラル実現に関連した、高炉プロセスにおける炭素削減10%を目的としたテーマに関するものである。これまで、水素還元による炭素削減効果や炉頂ガスの循環、高還元性焼結鉱の使用による定性的な効果は予測されていたが、実機の高炉プロセスにおける定量的な効果は報告されていなかった。本論文では、高炉へのCOG吹き込み、炉頂ガス中のCO2分離後のシャフトガス循環、高還元性焼結鉱の使用などについて、試験高炉を用いて定量的に効果を実証しており、非常にレベルの高い技術内容が明確に示されている。また、実機の高炉への適用に向けた社会実装への十分な現実性を有している。さらに、本論文に記載された技術開発の内容は、日本だけではなく全世界の高炉プロセスにおける炭素削減に大いに貢献できるものと考えられる。
以上より、本論文は、高炉の炭素削減効果において新たな技術を用いて定量的に実証したこと、技術的にレベルが高いこと、カーボンニュートラル実現に向けて全世界の研究者へ波及効果を期待できること、学術的にもレベルが高いことから、澤村論文賞にふさわしい論文であると判断できる。
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ギマラエス賞 該当なし
卓越論文賞(1件)
- A Kinetic Model to Predict the Compositions of Metal, Slag and Inclusions during Ladle Refining: Part 1. Basic Concept and Application
ISIJ International, Vol.53 (2013), No.12, pp.2110-2117
原田晃史、丸岡伸洋、柴田浩幸、北村信也(東北大)
https://doi.org/10.2355/isijinternational.53.2110
高級鋼の需要が増すにつれ、2次精錬の重要性が増大する中、特に溶鋼中介在物の組成変化、凝集および浮上現象については、精度の高い予測をすることが望まれているが、多様な支配因子が存在するため、系統的な把握をするまでには至っていなかった。本論文では、複雑な現象である溶鋼中介在物の組成変化を対象に競合反応モデルを適用することで、詳細な現象・メカニズムの解析・解明を可能としており、さらに介在物の凝集、浮上挙動の予測を物性値を適用することにより行っている。耐火物との反応、スピネルの生成挙動および脱硫反応など、より実践的な傾向についても明らかにしており、予測結果の取鍋操業結果とのよい一致を確認している。古くは溶銑予備処理に競合反応モデルを適用した例があるが、反応の方向性、限界を知る上で不可欠の熱力学平衡値のみならず、物質の移動現象を把握するために必要な物性値を折り込んだ速度論を適用して、溶鋼の介在物組成変化および浮上・凝集という更に複雑な現象への適用をしている点において独自性があり、論文発表以降、2次精錬工程の解析に大きな影響を与え、長期にわたり、世界的にも大変多くの引用がある。以上のことから、卓越論文賞にふさわしいと判断される。
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